|
「斜陽」は、太宰作品に珍しいミステリー「犯人」に出てくる、三鷹駅すぐ近くの肉屋の「離れ」で書かれました。現在では三鷹駅周辺もすっかり変わり、いくつか在った太宰の仕事部屋跡も大きなマンションに建て替えられてしまいました。武者小路実篤や童謡「赤とんぼ」の作者・三木露風ら多くの文士・歌人が住んだ三鷹、しかし三鷹と言えば「太宰」です。毎年6月に禅林寺で催される「桜桃忌」には、熱烈なファンで溢れ返ります。まさにカリスマ作家。センセーショナルな生き様はあまりに強烈ですが、太宰の神髄は文学作品なのでありあの唯一無二の文体の魔術である事を、アウトローなれど偉大な文学者であった事を忘れてはなりません。
「太宰」入水自殺を報じる当時のニュース映像を観た事があります。現在の玉川上水は水嵩も低く、流れもほとんどありません。とてもこんな場所で人が入水自殺を図ったとは信じられません。町並みだけでなく自然環境も随分変わってしまった様です。現在の川べりは鉄柵で囲われていますが、当時は西洋の田園風景の様にのどかで美しい場所だった様です。太宰がお気に入りの川辺に腰を下ろしている写真を見た事があります。玉川に架かる紫橋から百メートル上流、太宰と愛人が入水をした場所、それがちょうど写真の辺りです。やはりそんな美しい場所を死に場所に選んだのだなあ、と哀しいけれど納得がいきました。やはり太宰は、最後の時までロマンと美学を見失わなかったのだと。